東京地方裁判所 平成4年(ワ)21382号 判決 1993年12月21日
原告
瀬尾ミヨ
ほか一名
被告
東京ウエスターン交通株式会社
主文
一 被告は、原告瀬尾ミヨに対し金一九一万一七六二円、原告株式会社グリーテイングライフに対し金二〇万〇七二〇円及びこれらに対する平成四年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用のうち、原告瀬尾ミヨに生じたものは、これを六分し、その一を同原告の、その余の被告の各負担とし、原告株式会社グリーテイングライフについて生じたものは、被告の負担とする。
四 この判決は、原告らの勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告は、原告瀬尾ミヨ(以下、「原告瀬尾」という。)に対し金二二四万三一〇五円、原告株式会社グリーテイングライフ(以下「原告会社」という。)に対し金二一万〇七二〇円及びこれらに対する平成四年一二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用の被告の負担及び仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、路上(パーキングエリア内)に駐車していた乗用車の所有者及び同車両の後部トランクに商品を積載していた株式会社が、タクシーに追突されて、右乗用車及び商品が破損したことから、それぞれの物損について賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 本件交通事故の発生
事故の日時 平成四年一〇月九日午前三時三五分ころ
事故の場所 東京都港区西麻布四―五先外苑西通りの路上(パーキングエリア内)
加害者 井上達也(加害車両運転)
加害車両 タクシー専用小型乗用車(練馬五五く三八四一号)
被害車両 原告瀬尾所有の小型乗用車(練馬五四さ六九三二号)
事故の態様 右パーキングエリア内に駐車していた被害車両の後方で客待ちのため駐車していたタクシー専用小型乗用車(練馬五五け四二一〇号)、長島利己運転。以下「長島車」という。)に加害車両が追突し、その衝撃で前に押し出された長島車が被害車両に追突した。
事故の結果 被害車両は破損した。
2 責任原因
被告は、加害車両を所有し、井上達也は、被告の業務として加害車両を運転していた。
三 本件の争点
1 被告の責任及び過失相殺
(一) 被告
被害車両が駐車していた道路は、交通量の激しい外苑西通りであつて、片側三車線の道路がカーブし、夜間駐車が禁止されている区域であるところ、被害車両は、右道路の歩道寄りの車線に自動車の保管場所の確保に関する法律(以下「自動車保管法」という。)に違反して一二時間以上放置駐車したものであり、夜間運転する者にとつて予見し得ないから、本件事故と原告らの損害との間には相当因果関係がない。
仮に、被告に責任があるとしても、被害車両が右のような幹線道路上の駐車禁止区域に、自動車保管法に違反して長時間駐車灯を点灯することなく駐車したから、重大な過失がある。そして、井上達也は、長島車を前方に発見したが、右後方から走行してきたトラツクに幅寄せされたため、車線を変更することができず、ブレーキをかけたものの折からの豪雨のためスリツプして長島車に追突したのであり、右事故態様を考慮すると、五割の過失相殺を主張する。
(二) 原告
本件事故は加害車両を運転していた井上達也の一方的な過失によるものである。
なお、被害車両が駐車した道路部分は、夜間駐車禁止とはなつておらず、また、被害車両は本件事故当日の午前一時ころ右部分に駐車したのであつて、自動車保管法にも違反していない。
2 原告らの損害額
(一) 原告瀬尾は、本件事故により、次の損害を受けたと主張する。
(1) 車両損害及び車両買換費用 一六八万七八九〇円
少なくとも一五八万二九三七円
(2) レツカー代 二万四七二〇円
(3) 代車料 一〇万九六九五円
(4) タクシー代 二万〇八〇〇円
(5) 弁護士費用 四〇万円
(二) 原告会社は、本件事故により、次の損害を受けたと主張する。
(1) 商品損害 一八万〇七二〇円
(2) 弁護士費用 三万円
(三) 被告は、原告瀬尾の右損害のうち、車両買換費用分として一二五万八三六八円並びにレツカー代及び代車料として原告瀬尾主張の金額を認める。
第三争点に対する判断
一 被告の責任及び過失相殺
1 甲一、一二、一三、乙一の1、2、原告会社代表者本人に前示争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件事故のあつた外苑西通りの本件事故現場付近は、加害車両にとつては左方向に緩やかにカーブする、片側三車線の道路であるが、往復六車線という幅員の広い道路の割には、夜間の交通量が少ない区域である。本件事故現場付近は、九時から一九時までは時間制限駐車区間に指定され、歩道寄りの第一車線上にその約半分の幅を割いて相当数の路上駐車場(パーキングエリア)が白線枠により設けられ、歩道上にはこのことを示す道路標識及びパーキングチケツト発給設備が設置されている。右道路標識は、「9―19 P60分」というもので「日曜・休日を除く」及び「駐車は白線枠内に 違反の車はレツカー移動 麻布警察署長」とそれぞれ記した標識とともに立てられている。右道路付近は、その他の駐車禁止や停車禁止区域に指定されておらず、現に駐車禁止や停車禁止に関する道路標識や駐車禁止を示す黄線は存在しない。
(2) 原告会社代表者は、原告会社の商品であるクリスマスカードの配達等のため、その妻井上道子の母である原告瀬尾から被害車両を借り受け、普段は、原告会社の駐車場に駐車していた。井上道子は、事故前日の平成四年一〇月八日の深夜から事故当日にかけて、原告会社代表者を同乗させ、被害車両の後部トランクに原告会社所有のクリスマスカードを入れたまま被害車両を運転し、二四時間営業のコンビニエンスストアーに買物に出掛けたが、その帰りに豪雨が降つていたことから、事故当日の午前一時ころ原告会社代表者の自宅付近のパーキングエリア内に被害車両を駐車した。
(3) 井上達也は、加害車両を運転して、事故当日の午前三時三五分ころ、本件事故現場付近にさしかかり、客待ちのため被害車両の後方に駐車中の長島車を前方に発見したが、制動等の事故回避措置が間に合わず、長島車の後部に衝突し、その弾みで、長島車が被害車両の後部に衝突し、さらに、被害車両が同車の前に駐車中の車両の後部に衝突した。
以上の事実が認められる。
2 このように、井上達也は、客待ちのため駐車中の長島車に衝突したのであり、前方不注視の義務違反があることは明らかである。そして、被告が加害車両を所有し、井上達也は、被告の業務として加害車両を運転していたことは当事者間に争いがないから、被告は、民法七一五条に基づき原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき義務があることとなる。
被告は、被害車両は、幹線道路上に長時間放置駐車したものであり、夜間運転する者にとつてそのようなことは予見し得ないから、本件事故と原告らの損害との間には相当因果関係がないと主張するが、前認定のとおり、本件事故現場付近は時間制限駐車区間に指定され、現にパーキングエリアであることを示す白線枠や道路標識等が設置されていて、一定の条件の下に路上駐車することができる場所であることが明らかであり、しかも、井上達也は、客待ちのため駐車中の長島車に衝突したのであつて、遠方からでも駐車車両の存在することは明らかであるから、被告の右主張は、理由がない。
3 次に、被告は、被害車両が駐車禁止区域に、自動車保管法に違反して長時間駐車灯を点灯することなく駐車したことを理由に、過失相殺を主張する。しかし、本件事故現場付近は、九時から一九時までは時間制限駐車区間に指定されているものの、その他の時間帯は駐車禁止区域に指定されていないことから、被害車両は一九時から翌朝九時までの間は路上駐車すること自体は許されるし、前認定のとおり、被害車両は事故当日の午前一時に駐車を開始し、事故発生までは約二時間半駐車したに止まるから、自動車保管法に違反して駐車したということもできない。この点、被告は、原告らが、訴状において、被害車両は事故前日の夕方から駐車を開始したと陳述したのに、これを後に事故当日の午前一時に駐車を開始したと右陳述を改めたことが自白の撤回となつて、許されないと主張する。しかし、仮に、右事実が過失相殺の主要事実であると解したとしても、弁論の全趣旨によれば、原告代理人は、原告会社代表者本人尋問において初めて訴状に記載した駐車開始時間が誤りであつたことを知つて、右のように主張を改めたことが認められ、また、原告会社代表者本人の駐車開始時間に関する供述は、具体的であり、信憑性があるから、訴状の記載は錯誤によることは明らかであり、自白の撤回は許されるべきである(右事実が過失相殺の間接事実であると解した場合は、自白の撤回は許される。最高裁判所昭和四一年九月二二日第一小法廷判決・民集二〇巻七号一三九二頁参照。)。そして、前示のとおり、本件事故現場付近は、片側三車線という広い道路の割には、夜間の交通量は少なく、パーキングエリアに夜間駐車しても、残り二車線の交通の妨げとなるものではないことから、原告側において、本件事故現場のパーキングエリア内に駐車したことに、何ら非難すべき点はなく、このことを理由とする過失相殺の主張に理由がない。
また、被害車両につき駐車灯を点灯することなく駐車したとしても、前示の事故態様からすると、この事実が事故発生に寄与したということができないから(仮に、駐車灯を点灯していたとしても、加害車両は長島車を出発点とする玉突き衝突をしており、被害車両は同様の被害を受けていたものと推認される。)、この点を理由に過失相殺をすることができない。
なお、被告は、井上達也において、長島車を前方に発見したが、右後方から走行してきたトラツクに幅寄せされたため、車線を変更することができず、ブレーキをかけたものの折からの豪雨のためスリツプして長島車に追突したと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。仮に、そのような事実があつたとしても、前示のとおり、原告側に何らの落度もないから、このことを理由に過失相殺をすることができない。
よつて、被告の過失相殺の抗弁は理由がない。
二 原告瀬尾の損害
1 車両損害及び車両買換費用 一五八万二九三七円
甲二ないし四、五の1、2、一〇、一一、原告会社代表者本人に弁論の全趣旨を総合すれば、被害車両は、原告瀬尾が新車で購入後約二カ月で本件事故に遭い、その当時、時価一四五万三九四五円であつたが、本件事故の修理のため一七七万三八八三円の費用を要すること、同原告は、被害車両を廃車し、未だ車両の買換えを行つていないが、車両の買換えを希望していること、同原告が被害車両と同車種を購入するためには、検査登録料三〇二〇円、車庫証明料金二五〇〇円、自動車取得税六万六〇〇〇円、自動車重量税三万七八〇〇円、検査・登録手続代行費用一万〇四三〇円、車庫証明手続代行費用一万〇九〇〇円、納車費用六三六〇円、これらに関する消費税八三一円の費用を要することが認められる。
そうすると、被害車両は経済的には全損であるというべきであるから、車両損害としては、一四五万三九四五円となる。また、同原告は、車両の買換えにあたり右車両買換費用を要するところ、このうち、同原告が、予備的に、被害車両の使用期間分の減価償却をした合計一二万八九九二円を請求していることに鑑み、同金額を被告が負担すべきものと認める。
2 レツカー代 二万四七二〇円(当事者間に争いがない)
3 代車料 一〇万九六九五円(当事者間に争いがない)
4 タクシー代 一万四四一〇円
甲八の1ないし17、原告会社代表者本人によれば、原告瀬尾は、代車料が高価であること等からタクシーを利用したことが認められるが、同原告は、一〇月の一〇日から一一日まで、一六日から一八日まで、二〇日から二二日まで、一一月六日から一三日までそれぞれレンタカーを賃借しているのであつて(甲七により認める。)、タクシー代のうち、レンタカーを賃借していない日で、かつ、本件事故後一月以内の分に限り、相当因果関係にある損害と認める。右条件を満たす分は、合計一万四四一〇円となる(甲八の1、6ないし8、10ないし16)。
5 以上合計 一七三万一七六二円
三 原告会社の損害 一八万〇七二〇円
甲五の1、2、九、原告会社代表者本人に前示認定事実を総合すると、原告会社は、被害車両の後部トランクに一八万〇七二〇円相当の販売用クリスマスカードを収納していたが、本件事故のため、右トランクが破損し、折からの豪雨のため、右クリスマスカードが濡れてしまつて、その全てが販売不能となつたことが認められる。
四 弁護士費用
本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑みて、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用は、総額金二〇万円(原告瀬尾につき一八万円、原告会社につき二万円)をもつて相当と認める。
第四結論
以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告瀬尾につき金一九一万一七六二円、原告会社につき金二〇万〇七二〇円及びこれらに対する本件事故発生日以降の日である平成四年一二月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 南敏文)